ピアノの先生

わたしは、中学に入るまで、ピアノを習っていた。


家から、自転車で10分くらいのところに、ピアノの先生の家があって、そこに、毎週、土曜日か、日曜日に通っていた。


ピアノの先生は、練習してないのがバレると、すごい剣幕でおこるので、こわかった。

わたしは、家で練習するのが、大嫌いだったし、その頃は、特にピアノが好きだったわけでもなくて、親に強制的にやらされていただけなので、

ピアノの先生に、会いたくないなぁとか思いながら、わたしは、レッスンに通ってた。


ピアノの先生とは、練習してる曲のこと以外は、そんなに話をしたりはしなかった。

ピアノの先生、ピアノを間違えて弾いたら、すぐ怒るので、

余計な話をしたら、怒るのではと思っていた。


でも、ある時、なんでそんなことを話したのかは、わかんないんだけど、

ピアノの先生に、

「わたしは、本当は、お父さんとお母さんの子どもではないんだ」って言った。

なんでそんなことを言ったのかは、忘れたんだけど、

どうせ笑われるんだろうなと思いながら、軽い感じで言った。


わたしは、幼稚園の頃、母に、

「お前は、本当は、うちの子どもじゃない。 まりちゃん(母の妹)の子どもなんだ。 貰ってきたんだ。」と、何度か繰り返し言ってきたので、

小学生になっても、わたしは母の言うことを、信じてた。


時々、ノートのすみっこに、

「○○ (まりちゃんの苗字)  かなこ」

と、何回か書いてみて、

うーむ。と思ってた。


その話を、ピアノの先生に何気なく言ったんだ。


ピアノの先生は、全く笑ったりはしなくて、

真剣に話を聞いてくれた。


なんか意外だった。

絶対、怒られると思ってたし、

余計な話をするなとか言われるのかと。


先生は、話を聞いたあと、

かなこちゃん。 区役所に行けば、戸籍というものを見ることができる。戸籍を見れば、かなこちゃんが、お父さんとお母さんの本当の子どもかどうかがわかるから、大丈夫だよ。

かなこちゃんは、お父さんとお母さんの子どもだから。

戸籍を見れば、ちゃんとわかるから、大丈夫。


わたしは、ちょっとびっくりして、

先生がニコリともせず、真剣な顔をして、そんなふうに言うとは思わなくて。


それは、小学3年とか、4年くらいの頃のことだったけど、

わたしは、早くピアノ辞めたいなーってずっと思ってたけど、

結局、中学に入るまで、ピアノは続けていた。


その後も、相変わらず、ピアノの先生には、ビシバシ、怒られて、しょんぼりしてたけど、

ピアノの先生、怒るとこわいけど、実は優しい人なのでは?と思って、毎週通ってた。


ピアノの先生と、レッスンの時間に、ピアノと関係ない話をしたのは、その時だけだったような、気がする。


わたしは、誰かに、「大丈夫だよ。」って、言って欲しかったのかもしれない。


それなら、あの時、ピアノの先生に話をして、良かったなと思ってる。


ピアノの先生、ほんとにいつも、怒っていて、 「わたしの家に練習しに来て、どうするの。」とか、よく言ってた。